目が合って 誰もいなくて 薄暗い 図書館で今 僕らはふたり
うちの学校の図書館は、開架4階層、書庫3階層とかなり大きくて、書庫の地下2階は全部洋図書で埋め尽くされている。
結構貴重な図書も多く、100年前に出版された図書の初版なんかも置いてある。もちろん貸出はできないが。
こんな書物が普通に手に取ることができるだけでも垂涎ものだ。
かび臭くて、薄暗い、お気に入りの場所。
書庫の中には閲覧席ともいえない机と椅子が申し訳程度にあって、僕はその中でも一番奥の柱のそばが好きで、誰もいなければそこに座ることにしている。
…と思っていたのだが、今日はどうやら先客がいるようだ。
しかもつっぷして寝ている。
図書館は寝るところじゃないというのに。寝るならせめて開架の閲覧席の多いところにしてほしいですね。書庫はただでさえ席が少ないんですから。
ん?しかし、あの寝姿、見覚えが…
「太一さん?」
「んあ?こうしろ?」
本を開きっぱなしにして机に突っ伏していたのは、やはり太一さんだった。
「何やってんですかこんなとこで」
「いやー、勉強してたんだけどさ、寝ちまってたみたいだ」
たははと笑うその頬にはしっかりインクの跡がついている。
「だからってなんでまたこんな奥底で。開架の方が広いのに」
「だってこっちのが涼しいじゃんか」
確かに書庫は貴重書も多いため、室温と湿度が一定になるように保たれている。夏でも少し涼しいくらいだ。
「あと、お前いるかなって思って」
「え?」
「光子郎の特等席じゃんか、ここ」
まさか太一さんが知っていたなんて。
なんだかんだいって、人のことちゃんと見てるんですよねえ。
自分のお気に入りの場所を太一さんが知ってたことにはからずも顔が緩んでしまう。
「なあ光子郎、椅子持ってきてここ座れよ。一緒に勉強しようぜ。俺が寝ないか見張っててくれ」
「え、狭くないですか」
太一さんは勝手にセッティングをはじめるから、結局ふたり肩を並べておべんきょうだ。並べてというか、直角だけど。
ここには僕ら以外だれもいない。
ページをめくる音とペンを走らす音、お互いの吐息しか聞こえない空間。
机に向かう太一さんの意外にも真剣な眼差しを、時折盗み見る。
脚がぶつかる。肘があたる。目が合う。
古い洋図書のページをめくると端がぽろぽろ崩れ、酸性紙のかけらはひらひらと床に落ちていった。
#太光版深夜の真剣お絵描き文章書き60分一本勝負
2015/5/19「図書館(図書室)にて。」