真剣に見つめるから笑わないで 明日は君の友達じゃない 

なんとなく、一緒に帰る。
わりと頻繁に、遊びに出かける。
しょっちゅう、家に来る。
だけど、それだけだ。
中学2年生の男女がふたりでなかよくしているなんて、周囲にとってはただならないことみたいだけれど、僕たちにとってはこれが当たり前だ。
そう、当たり前だし、ただそれだけ。
親友だとか幼なじみだとかいいおともだちとか、そんな言い訳にはうんざりだ。
僕は君の、わるいおともだちになりたい。

7月にはいり、じんわりと汗ばむような陽射しが君の額にまぶしい。
暑さに耐えきれず、最近は学校帰りによくコンビニでアイスを買って公園に寄る。
ベンチで座ってひとくちちょうだいなんてアイスをかじりあうふたりはどこからどうみても恋人同士に見えるはずなのに。
僕の気持ちだけが夏においてけぼりをくらっている。
少し動けば膝が触れるくらいの距離。
だけどどうして、僕は君のこころを動かせない。
太陽が雲に覆われた瞬間、君のルビーの瞳をじっと見つめる。
「ヒカリちゃん」
テノールを頭に響かせるように名前を呼ぶ。
萌葱色の制服に映える白襟に手を伸ばし、やわらかくまるい肩に手をかけた。
瞳はルビーをとらえたまま。
僕がひとつ息を吐くと、彼女のさくらんぼのようなくちびるが動いた。
「タケルくん」
甘やかな響きに脳天から刺激される。
このままあと数センチ近づいてしまえばいい。
さあ、僕も男だ。
「チョコレート、ついてるよ」
「え?」
ふふふと彼女は体をよじって笑う。
口の端を手で拭うと、さっき食べたチョコレートアイスが指にくっついてぺたぺたした。
「あげる」
準備よくウエットティッシュを手渡してくれる君は、まだくつくつと笑っている。
ほら、やっぱりこうなんだ。
がんばっていいムードをつくろうとしたって、いつもなんだか話をそらされてしまう。
君が注意深く核心を避けてるんじゃないかとさえ思うよ。
君はいつだって、僕をいいおともだち以上にしてくれない。
「タケルくんて以外と抜けてるのよね」
いたずらな仔猫みたいな笑顔。
いつか僕だけのものにしたいんだ。
「ねえ、今日は僕のうちに寄ってかない?」
「もちろん。社会の宿題、いっしょにやりたいの」
ふたり並んで歩き出す。
きらめく陽射しが君の首筋にはねかえってまぶしい。
仲の良いおともだちのふたり。
今日君が僕の家から帰るときは、おともだちでなくなればいいのにな。
隠れていた太陽はいつの間にか雲を突き破って僕たちを照らす。
夏が、やってくる。

#タケヒカ版深夜の真剣お絵かき文字書き60分一本勝負
2015/9/25「14歳」

Posted by 小金井サクラ