大切な今日と言う日にありがとう 君と出会えて愛してくれて

誕生日をお祝いするのなんてもう何回目かしらと口では言うものの、毎年この日は楽しみで仕方がない。
タケルくんに喜んでもらいたいって気持ちももちろんあるけど、いつも素敵なエスコートをしてくれるタケルくんが、今日だけは黙って私にエスコートされているなんて、ちょっとかわいいじゃない。
誕生日をふたりきりで過ごすようになってから、今年で10回目。
どこへ連れていこうかなんて考えるだけでもわくわくしちゃう。
麻布のカジュアルフレンチ?西荻窪の隠れ家バー?赤坂のオイスターバーもいいかしら。中野の熟成肉と日本酒のお店、おいしかったなあ。

タケルくんと一緒にいるようになってから、おいしいものに対するアンテナが鋭くなった。
タケルくんは、こんなのどこでみつけて来たのって思うくらい、お店とはわからない佇まいの、だけどおいしい小料理屋なんかいっぱい知っている。
母さんが教えてくれるんだよ、なんて言ってたっけ。
知らないお店でも興味をひかれるとおもしろそう!って入っちゃうし、お店の人とも仲良くなっちゃうから、私も新しいお店を開拓するのが楽しくなってきた。
普段は少食だけど、タケルくんと食べるごはんは楽しいから、いつもよりたくさん食べてしまう。

お店は渋谷のギリシア料理に決めた。小さいお店であたたかい雰囲気の、おかみさんが一人で切り盛りしているところ。
ハーフコースに手作りのバースデーケーキをつけてもらい、大満足。
タケルくんも珍しい料理が食べられてとっても興味深そうだった。
2件目はジャズバーで、こちらはタケルくんが以前から来たがっていたグランドピアノのあるお店。
バーテンダーさんに頼むとたまに弾いてくれるらしく、タケルくんはリクエスト曲なんて考えていた。
タケルくんはマルガリータ、私はペリーニで乾杯する。
今日は彼、お誕生日なんですよ、なんて言ったらバーテンダーさんがバースデーソングを弾いてくれることになった。
「改めて、タケルくん、誕生日おめでとう」
「ありがとう、ヒカリちゃん」
バースデーソングの響くなか、彼はその手のひらにのせた小箱を私に差し出した。
「僕から、ヒカリちゃんに」
薄暗い店内で、彼のブロンドはより輝いている。
紺青色の上品な布張りの小箱をあけると、中にはきらきら光るちいさな星がおさめられていた。
「ネックレスだ…」
私の驚く顔を見て、彼は世にも満足そうな笑みをこぼす。
「ヒカリちゃん、誕生日に、毎年、僕と一緒にいてくれてありがとう」
涙をこぼさないように目を伏せるのがせいいっぱいだった。
自分の誕生日なのに、私にプレゼントなんて。
そんなしてやったりみたいな顔をして。
かわいくて、愛しくて、幸せで。
想い想われる関係が、こんなにもあたたかいなんて。
「ありがとう」
好き。大好きよ。
彼はにこにこと笑う。言わなかった気持ちも見透かしているように。
「つけてあげる」
タケルくんはそのお星さまを丁寧に四角い夜空から取り外した。
「ダイヤモンド?」
「うん、ちいさいけど」
金色の台座に包まれた透明な宝石は、ちいさくとも確かな存在感で輝いている。
彼の手が私の首筋を這い、金色のチェーンが肌をすべる。
みみもとに、息がかかる。
「似合うよ」
少年のような笑顔のまま、私の頬に、額に、唇に、キスをする。
こんな少しのお酒で酔ってしまったのかしら。
からだじゅうが火照ってしまう。
見計らったように差し出された2杯目のカクテルは、透き通った美しい赤色。
「キッスオブファイヤー」
ピアノから戻ってきたバーテンダーさんかこちらに向けてウインクした。

#タケヒカ版深夜の真剣お絵かき文字書き60分一本勝負
2015/8/7「誕生日」

Posted by 小金井サクラ