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今日は何の日?なんて珍しい質問をしてくるから、驚いてそのいたずらっぽい瞳をじっとみつめてしまった。
二人がけのソファに並んでただでさえ近い距離をずいと詰めてくる。
あたたかい手を、彼女は僕の手に重ねた。
「今日は私たちが出会った日よ」
そうだ。16年前の今日。僕たちは出会った。そして、長い冒険をした。
「ついでにタケルくんが私のことを呼び捨てにした日でもある」
ヒカリちゃんがそんなセレモニカルなことを言うなんて思わなかった。
記念日とか、普段はあまり気にしてる風でもない。
付き合い始めた日でさえ特別祝ったりはしない。
なにかやるのは誕生日とクリスマスくらいだ。
「珍しいね、そんなこと言うなんて」
そんなめんどくさい女みたいな気持ちで言ってるんじゃないのよ。 彼女は少し不服そうな顔をする。
「私が冒険に参加したのは今日からだもの。私にとって大切な日なのよ」
ヒカリちゃんが8月1日にみんなで集まるとき、少しだけ、ほんの少しだけ寂しさを漂わせているのを僕は知っている。
「デジモンだけじゃない。タケルくんに出会えた。とっても大切な日」
僕にとってもそうだ。ヒカリちゃんと出会えた、大切な日。
だけど選ばれし子供たちみんなの記念日が8月1日だから、敢えてヒカリちゃんと僕が出会った日、なんて言ってしまったら、ヒカリちゃんが後から冒険に参加したことを気にしてしまうんじゃないかなんて思って、今までそんな風に言ったことはなかった。
ヒカリちゃんの方から、今日は僕と出会った日、なんて言ってもらえることが嬉しくて、つながっていない方の手で彼女を抱き寄せた。
頭がぽすんと僕の肩に乗って、君は、くすぐったそうな顔で笑った。
僕たちはぴったりくっついて、汗ばみながら、お互いの耳にだけ届くようにささやき合う。

私たちね、もう人生の3分の2も一緒にいるのよ。
そっか、8歳のときにであって、今日であれから16年か。
長いね。
うん。
早いね。
うん。
タケルくんが私の紋章を守ってくれた。
よく覚えてるね。
忘れられないよ、あの日のこと、全部。
そうだね、忘れられない。
タケルくんは、私より先に、死んだらだめだよ。
うん。
私を守るために死んじゃったりしたら、許さないからね。
わかってる。ヒカリちゃんもね。
うん。
一緒に、生きていこうね。

大切な人を失う痛みを知った
大切な人を想う愛情を知った
戦いのさなかで出会った君は
凛々しくて気高くて
まるで天使のようだった
君のこれまでとこれからを
抱きしめて生きていくことを
僕たちの運命が交わったこの日に誓う
僕たちのために散った命に誓う

2015/8/3
愛を込めて

Posted by 小金井サクラ