瞳からこぼれる星は恋の屑 あたしあなたのポラリスにして

お父さんとお母さんが寝静まった頃、あたしたちはそっと家を出た。
別になにをするわけでもない。深夜のおさんぽ。
冷えるといけないからなんてお兄ちゃんはベンチコートやらイヤーマフやら腹巻やらをどんどんのっけいていくもんだから、あたしはもこもこになってしまった。
対してお兄ちゃんは、ダッフルコートとマフラーだけで、さみーなんて言っている。
いつもの海岸の、いつものベンチ。
カップル用の少し幅のせまいベンチで、もこもこのあたしはお兄ちゃんとぎゅっと体を寄せ合った。
あたしの右手はお兄ちゃんの左手の一部になって体温を共有している。

「今日は星がよく見えるな」
澄んだ冬の空は濃紺で、赤や白の星が良く映える。
流れ星だって珍しくもなく数分に1回ひゅんと落ちていく。
宝石みたいだ。ううん、違う。宝石がお星さまみたい。
今この夜空をふたりじめしているなんて、ロマンチックすぎて涙が出そう。

「あの、いちばん光ってるのが、おにいちゃんね」
「どれだよ」
「あの、ちょっとオレンジっぽいやつ」
「じゃあヒカリは?」
「ヒカリは、その隣のちっちゃいしろいやつがいい」
つないだままの手で星と星をむすぶ。
誰も知らない星座。あたしたちだけの。
「なに座にする?」
「ヒカリが決めろよ」
「えっとね、おにいちゃん座」
「俺だけじゃんか」
「じゃあ、おにいちゃんとヒカリ座」

なんだそりゃってくつくつ笑うお兄ちゃんの口からは、真っ白な吐息が流れ星になって出てきた。
つめたい手が頬に触れる。つめたいくちびるがくちびるに触れる。
熱い舌が歯茎に触れる。熱い衝動がハートに触れる。
海と空の境界線はあいまいで、水面に星が輝いている。
深海を泳ぐ宇宙船のなかで、あたしたちはふたりきりだ。
夜が明けなければいい。朝が来なければいい。
あたしたちの恋をオリオン座に閉じ込めて、二度と夜から出られないように。
夜明けがきたら光に溶けてしまうから、その前にどうか、幻みたいな恋を実感させて。
何億年も前の光のきらめきに見つめられながら、あたしたちは長い長いくちづけをした。

星屑のひとつの気分はこんな感じ。

#八神兄妹版深夜の真剣お絵描き文字書き60分一本勝負
2015/12/11「天体観測」

Posted by 小金井サクラ