風邪早く治せよなんて言うのなら どうして置いていってしまうの 

おにいちゃんはね、ヒカリのことずっと守ってくれた。
だいじにだいじにね、春の海にそよぐ潮風みたいに、ヒカリのことぎゅっとしてくれた。
ヒカリはずうっとそのあったかい手に甘えていたいの。
だいすきなおにいちゃん。
ヒカリはいつもおにいちゃんのあとにくっついて、つまづいて、助けてもらうの。
だけどね、ヒカリはわかってる。
おにいちゃんは、ヒカリのこと、心配してるんだよね。
ヒカリが死んじゃうかもしれなくて、こわかったんだよね。
こわかったから、やさしいんだよね。
ヒカリはね、ちゃんとわかってるんだよ。
おにいちゃんが、すっごくすっごく気にしてること。
だからヒカリにやさしいんだってこと。
だけどヒカリはずるいこだから、おにいちゃんにやさしくされるのが、くすぐったくて、うれしくて、おむねのところに咲きはじめてる花のつぼみがやらかくなってるみたいになるから、わざと心配してもらってたの。
おにいちゃんがヒカリをだいじにだいじにしてくれるのがうれしかった。
ピーマンこっそり食べてくれたり、学校のもちものがたくさんあるとき持ってくれたり、早く走れないでおいてけぼりなとき、手をつないで一緒に歩いてくれたり。
ヒカリね、このままでいいやって思ったの。
おにいちゃんにだいじにしてもらえるなら、このままたくさん守ってもらえるなら、やわらかい夢のなかにいられるのなら、このままおにいちゃんに心配されたいなって。
ヒカリは、ずるいこなんだよ。

ヒカリがわるいこだから。
ヒカリがずるいこだから。
かみさまが見てたの。

おにいちゃんは空にとけていった。
ヒカリ、ぎゅってしたのに。
いかないでって、おにいちゃんの背中にぎゅってしたのに。
おにいちゃんはヒカリをおいてどこかにいったりしないって思ってたのに。
どんどん引っ張られていくおにいちゃんのからだをつなぎとめようとして、手を何回もにぎりかえしたの。
おにいちゃんの手はあったかかった。
すこしずつはなれていく手を、わざとふりほどくことは絶対しなかった。
おにいちゃんの手がヒカリのいちばんのびてるつまさきだちでも届かなくなって、おにいちゃんはいってしまった。
ゆっくり空にのぼっていくおにいちゃんは、絵本でみる天使さまみたいだったの。
ヒカリ、泣かなかったよ。
だからおにいちゃん、ヒカリはえらいなって、あたま、くしゃくしゃってして。

ヒカリがわるいこだから。
ヒカリがずるいこだから。
かみさまが見てたの。
ねえかみさま、ヒカリ、いいこになるから。
おにいちゃんをかえして。

#八神兄妹版深夜の真剣お絵描き文字書き60分一本勝負
2015/9/25「21話」

Posted by 小金井サクラ