キスをする合間に眼鏡はずすのは 衝動になるための身支度
風呂からあがって部屋に入ると、ヒカリがわがもの顔で俺のベッドを占領していた。
Tシャツにショートパンツといったいでだちで、寝転がって本を読んでいる。
俺がベッドの端に腰掛けると、ころんころんと転がってきた。仰向けの状態で俺の太ももに頭を乗せる。
ちゃらんとシルバーのフレームが鳴った。
「眼鏡ずれてるぞ」
「いいのよ、度は入ってないし」
「え、入ってないのか」
2週間ほど前からヒカリは眼鏡をかけはじめた。
繊細な細身の銀縁は、ただでさえ白いヒカリの肌に雪原の如く映える。
たしかにレンズ越しに見える輪郭はまっすぐだ。
いわゆるおしゃれめがねというやつなんだろうか。
さすが中2の女子。ファッションに興味津々だ。
「家でまでそういうのつけてるのか」
こういうこと言うと人に見せるためじゃなくて自分のためにおしゃれしてるんだからーなんて言われそうだ
「おにいちゃんがこういうのすきかなって」
え?
俺、特別眼鏡がすきってわけでもないんだが。
まあたしかに、ヒカリが付けてると、いつもと雰囲気がちがってかわいいとは思うけれども。
「こないだ眼鏡のきれいなおんなのひとと歩いてたでしょ」
こないだ?眼鏡?なんの話だ?
「すらっとしてて、髪は栗色のセミロングで、身長もけっこうあって、美人、てかんじのひとだったよ」
責めるような色のルビーに、わけもわからず背に汗が流れ落ちる。
「お兄ちゃんの高校の制服着てた」
ああ、わかったぞ。
確かに帰り道にクラスの女子に話し掛けられたような。
サッカー部の奴の彼女で、今度そいつの誕生日なんだけどなんか欲しいものあるとか言ってなかったかって聞かれたような。
確かその子がセミロングで眼鏡だったような。
「たまたま一緒になっただけで、なんもないぞ」
「そうなんだ」
笑みのかたちのくちもとから漏れるため息は安堵の音。
「それで眼鏡にしたのか」
ヒカリは瞳をそらしながらも頷く。
かわいいやつめ。
ヒカリ以外の女なんかみえてないってのに。
「俺は眼鏡きらいじゃないけど、邪魔じゃないのか」
「邪魔ではないよ」
「ふうん」
一瞬の隙をついてくちづけをした。
かしゃんと眼鏡がゆれる。
今度は深く、顔の凹凸をぴったりくっつけるように。
角度を変えるたびに鼻先が、フレームや鼻あてに接触する。
くちびるが離れると、ヒカリはおおきく息を吐いた
「眼鏡、ないほうがいい?」
濡れた瞳が少しずれたレンズ越しにみつめてくる。
細い指でもどかしく脱がされたメガネは無造作にベッドサイドに置かれた。
ヒカリの濡れたくちびるが飛びついてくるのと同時に、俺達はベッドに倒れ込んだ。
ああやっぱり、眼鏡がないほうがキスがしやすい。
#八神兄妹版深夜の真剣お絵描き文字書き60分一本勝負
2015/9/11「眼鏡」