くちもとについたクリーム溶けちゃうわ 冷えた舌先 甘い興奮
汗は玉になって足元に局地的な雨を降らしている。暑い。暑すぎる。
デックス東京ビーチの涼しい館内に急ごうと足を進めていたら、Tシャツの裾を引っ張られた。
「お兄ちゃん、クレミアだよ!」
イカヤキスタンドにはおよそ似つかわしくないラグジュアリーな看板を飾るソフトクリーム。
生クリームのソフトと、ラングドシャのコーン。
たしかにうまそうだが、今はもっとさっぱりした、ラムネとかが飲みたい。
だらだら振り返ると、看板と同じものが既にヒカリの手の中におさまっていた。
「おいしい…」
ヒカリは歌い踊るようにアイスに口をつけ、うっとりしている。
こんなにおいしそうに食べられたらアイスも本望だろう。
「ずっと食べたかったの」
白いクリームの山にヒカリのくちびるが吸い込まれていく。
「吉祥寺とか新宿とか池袋にあるのは知ってたんだけど、お台場にも食べれるとこできたんだ」
「これから毎日食べれるな」
「お兄ちゃんもひとくち食べる?」
白に溺れたくちびるの端を赤い舌がぺろりとなぞる。
差し出された手ごと両手で包んで顔を近づけ、側面を下から上へなめ上げた。
確かにこれは、今まで食べたどのソフトクリームよりおいしい。
ヒカリは暑さで上気しているのか頬から首、耳の裏まで真っ赤だ。
「お兄ちゃんのひとくちは大きいのよね」
ルビーの瞳をきらめかせながら、ヒカリも顔を近づけ、舌を差し出した。
空いている左手を俺の手の上にさらに重ねて自分のほうにぐいと寄せる。
濃厚でクリーミーな恍惚。
額から汗がぽたりと地面に落ちた。どちらの汗かはわからない。
「あ、やだぁっ」
手のひらは見る間にクリームまみれになっていた。
なるほど、ラングドシャは普通のコーンより防御力が低いんだな。
それにこの暑さであっという間に溶けてでろでろになったクリームでは崩壊もやむなしか。
「べたべただな。服とか大丈夫か」
「ヒカリは大丈夫だけどクレミアはだいじょうぶじゃない…」
ヒカリはぐしゃぐしゃになったラングドシャを名残惜しそうに口に入れ、そのままクリームにまみれた自分の指をしゃぶった。
咥えられた指と宝石のような瞳に、身体の奥が熱くなる。
リップ音とともに弾き出されたヒカリの人差し指めがけて血が集中する。
無邪気に無意識にくすぐってくるんだよなあ、まったく。
「手洗ってこようぜ」
「うん」
頭がくらくらするのは、暑いからだ。
身体に熱が集まるのも、暑いからだ。
#八神兄妹版深夜の真剣お絵描き文字書き60分一本勝負
2015/8/21「アイスクリーム」