いたずらな夜空の花よ 伝えてはいけない想い どうか隠して

いわゆる地域の夏祭りは、彼氏彼女か、または彼氏彼女になりたいひとたちが行くもので、まあ友達と行ってもそこそこ楽しいんだけど、どうにも肩身がせまく感じる。
中学二年生、恋に恋するお年頃。
学校でも周りはカップルだらけ。
学校の外でおててつないで歩いてる友達カップルなんかをみかけたら、気まずいことこの上ない。
だから行かないっていってるのに。
なんでお兄ちゃんはお祭り行かないのか、なんてきいてくるのかしら。
しかも、大輔とかタケルとかと行かないのか、だって。
デリカシーのないひと。
カップルで行くのが当たり前で、最後の花火をカップルで見ると幸せになれる、なんて言われてるお祭りに、なんで、なんで、すきなひとじゃない人と行かないといけないのよ。
なんで、すきなひとからそんなこと言われないといけないのよ。
私はぶすくれて、おやつのチョコレートと紅茶を持って部屋にこもっている。
昔ながらの祭り囃子が近くの通りのスピーカーから聞こえてくる。
空は水色からオレンジ色に変わっていく途中で、半分にわかれているみたい。
お兄ちゃんはお祭り、行ったのかしら。
誰と行ったのかしら。
結局考えて泣きそうになっているんだからどうしようもない。
私は、お兄ちゃんとお祭りに行きたかったの。お兄ちゃんと花火を観たかったの。
言わないんだからわかるわけない。
結局いつもそうやってぐじぐじ考えているだけ。
情けない、私の恋。

ふいにノックの音がした。
ヒカリー、はいるぞー。
慌てて身なりを正す。
あ、やばい、くつした落ちてる。
「なによお兄ちゃん、制服なんか着て」
高校の制服、なんでブレザーなのかな。詰襟も見てみたかったな。
「これから中学行くんだけど、一緒に行くか?」
疑問符が3つくらい浮かぶんだけど、それはまああとまわし。
「んもー、しょうがないなあ」
お兄ちゃんと一緒におでかけできるならなんでもいい。

中学に行くというので私も制服に着替えた。
浴衣の女の子たちとすれ違っても、惨めにはならない。
だって私は今、すきなひとと歩いてる。
学校に着くと、お兄ちゃんは開いてる入口から我が物顔で入っていく。
誰もいない、静かな廊下。
グラウンドからは運動部の掛け声が聞こえてくる。
「お兄ちゃん、どこいくの?」
「行けばわかる」
部活に顔を出すとか、先生に会うとか、そういうことだと思ってたけれど、お兄ちゃんはむしろ誰にも会わないように気を付けているように見える。
階段をのぼるたびに額に汗がにじんでしまう。
学校全体が大きなサウナのようだ。
最上階、屋上へ続く階段の踊り場まで来ると、お兄ちゃんはポケットからなんらかの細い棒を取り出した。
「え、ちょっと、お兄ちゃん」
がちゃん。
いとも簡単に鍵をあける。
「行こうぜ」
屋上に出ると、もう真っ暗だった。
街を見下ろすと、ビル群のあかりがきらめいている。
風がそよそよと吹き付け、スカートのプリーツを揺らす。
「時間ぴったりだぜ」
ひゅるるるる、と大きな音がした。
振り向くと、色とりどりの花が夜空に咲いている。
「花火だあ」
ひゅるるる、ぽん。ひゅるるる、ぽん。
「いいとこだろ」
「お兄ちゃん、よく知ってたね」
「まあな」
すきなひととお祭りの最後の花火を見たら、幸せになれる。
確かに、私は今しあわせだ。
ヒカリはね、お兄ちゃんと、お祭りに行きたかったんだよ。
でも、お兄ちゃんと一緒に、ふたりきりで、花火が観れただけで、今、涙が出そうなんだよ。
泣いてるのを気取られたくなくて、フェンスに手をかけて覗き込んでるふりをした。
「あぶないぞ」
お兄ちゃんが後ろから、私とフェンスを押さえるように手を重ねる。
お兄ちゃんの胸板を、背中で感じる。
お兄ちゃんの吐息を、つむじで感じる。
すきだよ、お兄ちゃん。
フェンスとお兄ちゃんの間にはさまれて身動きがとれない私は、そのまま幸せに身を委ねることにした。
ひゅるるる、ぽん。ひゅるるる、ぽん。
お兄ちゃんが何か言ってるみたいだけど、花火の音が大きくて聞こえない。
俺は、お前と、 ひゅるるる、ぽん、 だよ。
ひゅるるる、ぽん。
ねえ、今なんて言ったの?

#八神兄妹版深夜の真剣お絵描き文字書き60分一本勝負
2015/8/7「夏祭り」

Posted by 小金井サクラ