夢の通い路

朝が来るまでもう一度
あなたの鼓動に重なって
星かごにとじこめて

まだ夜は深く、星空は静寂の紺。
隣で眠るお兄ちゃんの腕に抱かれ、私はこの心地よい呪縛から逃れることができない。
寝息は何度も私の前髪にキスをする。
乱暴な脚は夏掛けを蹴飛ばし、クーラーの風が直接素肌をなめていった。
筋肉ののった胸板は汗ばんで、私の頬の熱を奪っていく。
鎖骨の下のくぼみに唇を寄せると、小さな薔薇がほころんだ。
こんなに儚い愛の証はきっとすぐに消えてしまう。
わかっていても、あなたを好きでいることをやめられない。
「ヒカリ」
ほとんど音もなくかすれた空気が私の耳をくすぐっていく。
「好きだよ」
寝言のような呪文を合図に、唇は重なり合った。
お兄ちゃんの右手が私の胸の膨らみを下からぴったり包み込む。
唇は首から滑り降りて膨らみの裾野にたどり着き、雪原に椿が落ちた。
「おそろいだね」
あなたの愛しい痕跡が自分のからだに残っている。
たまらなくなって頬にキスをしたら、まぶたとおでこに返された。
「さっきね、夢にお兄ちゃんが出てきたの」
花びらが風に遊ばれるくらいにゆっくりと、背中から腰にかけて指がすべっていく。
「夢ってね、自分のことを想ってる相手が出てくるんだって」
素肌どうしはぴったりくっついて、ふたりの間に生まれた熱が指先をとかしてしまう。
「俺の夢にもヒカリがでてきた」
「そうなの?なにしてた?」
瞳は一瞬月あかりをとらえ、ふたたびベッドに沈んだ。
「忘れた」
「もう」
星空の視線をさえぎるように、裸の胸板が覆い被さってきた。
ぼんやり暗い輪郭がふたつ重なって、ベッドのスプリングが大きく軋んだ。
「もう一回眠るか?」
「夢でまた逢えるかな」
もっと、息ができないくらいに、夢みたいなことをして。

ひばりが鳴けば夜が明けてしまう。
今日と明日のはざまに私たちを残して。

Posted by 小金井サクラ