嵐のような太陽が水着のあとをさらってしまった
胸の痛みをほどいて
灼けるように熱いの
恋する夏が嫉妬する
君の背中は砂まみれ
嵐のような太陽が水着のあとをさらってしまった
「おにいちゃん、まだ怒ってるの?」
「別に怒ってねえよ」
さっきから、お兄ちゃんはすこぶる不機嫌だ。
夕陽でオレンジ色の海辺を、さくさく歩いていく。
あたしは慣れないビーチサンダルで、数歩後ろをついて歩く。
ビキニの胸元のリボンがさみしく揺れる。
いつもなら隣で歩幅を合わせてくれるのに。
自分のせいだから、なにも言えない。
「お兄ちゃん、かっこわるい」
昼間、みんなでわいわいしてるとき、ぽろっと出た言葉。
たぶんこれを気にしているのだ。
怒ってないとか言って教えてくれないけど。
そりゃあ、かっこわるいなんて言われて嬉しいわけないけど、でもこんな数時間たってもまだ気にしてるなんて。
他のみんなといるときは、いつもの明るいお兄ちゃん。
でもあたしには、他の人にはわからないくらいに、ほんのちょっと避けていた。
目があったらいつもにかって笑ってくれるのに、合う前にそらされちゃった。
そんなに怒ってるのかしら。
なんの気なしに言ったひとことが、こんなことになるなんて。
考えを巡らせながらついて行くと、お兄ちゃんは岩陰に消えた。
ぱたぱたとサンダルをならして岩場をのぞくと、右腕にぐんと衝撃。
次の瞬間には、あたしはお兄ちゃんの胸にぽすんとおさまっていた。
下は水着、上はラッシュガードだけ、しかもチャックはあいている。
つまり、お兄ちゃんの焼けた素肌に直接からだがくっついている。
何かを考える前に、くちびるを塞がれた。
お兄ちゃんの吐いた息が、口のなかからからだ中を巡っていく。
下くちびると歯の間に舌が入ってきて、その異物感に、乙女の純情は蹴散らされる。
こたえるようにあたしも舌を出した。
舌先でキスをして、上下に絡み合い、粘膜を交換する。
どちらかがくちびるを離そうとすると、もう一方が追いかける。
めいいっぱいキスをして、もうとろとろに溶けてしまったところで、お兄ちゃんはあたしの耳もとに、きいたこともないようなバリトンを響かせた。
「兄ちゃん、かっこわるいか?」
その言葉だけで、真っ赤な果実が熟してしまう。
「お兄ちゃん、かっこいい、よ」
「よくできました」
頬に、まぶたに、首筋に、くちびるを押していく。
ふれたところから染み出すからだの奥のリビドー。
「ごほうびだ」
左手は腰を抱え、水着のスカートの間に親指が挟まれた。
右手はホルターネックをいとも簡単にはずし、その下の、くっきりちがう色をした肌があらわになる。
日焼け止めを塗っていても、こんなに焼けてしまうのね。
今日1日でできた水着の日焼けあと。
肩ひも分の白い肌も、夕暮れの熱い太陽が、全部焼いてしまうわ。
「ヒカリ、真っ赤だぞ」
「太陽が、こんなに近くで燃えているんだもの」
砂まみれのキス、砂まみれのからだ。
このまま熱さに溺れてしまおう。
片方脱げたビーチサンダルもそのままに、あたしは素肌で夏を抱きしめた。