君の眼に映り込みたいときもある 例えばお洒落に夢中なときに

足の指に塗るマニキュアのことを、ペディキュアと言うらしい。
絨毛のような形のウレタンを指の間に挟んで、彼女は色とりどりの小瓶の中から一つを手に取る。
刷毛の先についた透明な液体はどろりとすべり、彼女の親指の爪に玉を作った。彼女がそれをささっと刷毛でならすと、ほんのりピンク色の爪がてりてりと輝く。
まるで魔法かなにかのように、彼女の刷毛で触った爪がぴかぴかのてりてりになっていく。あっという間に彼女の足の爪は魔法にかけられてしまった。
「ミミさん、すごいですね」
「光子郎くん、まだこれステップ1よ。乾いたら色を塗るの」
「ああ、乾かすんですか」
「うん。乾くまで待ちます」
教本のようなことを言って彼女はにこにこ笑う。
お風呂あがりにゆるくまとめた髪の後れ毛が揺れ、シトラスの香りを漂わせた。
「触ってもいいですか?」
答えを聞くより前に、僕の手は彼女の足首をとらえていた。
座っている彼女のそばに寝転がって、その足の裏にキスをする。
彼女の足の指の間にはさまっているウレタンを慎重に取り外し、代わりに自分の手の指をからませた。付け根と付け根がぴったりとくっつくぐらいに深く。
つちふまずを、くるぶしを、指の腹を、丹念に舐める。
「や…」
吐息に隠した快感に気づけないほど野暮な男じゃない。
親指と人差し指の間に唇をうずめて、舌先で縦横無尽に触れてみると聞き慣れている高さの声になってきた。
そのまま舌で足の甲を這う。
踵を愛撫し、ふくらはぎから膝の裏へとなめらかに指が移動する。
舌先が別の生き物のように、愛しい人を味わいつくそうとうごめいている。
肌で、舌で、全身で、貴女を感じたい。
彼女はソファにもたれかかり、快感に身を委ねることにしたようだ。
「こうしろうくん、だめぇ…」
程よく肉のついた内ももまで手をのばすと、びくんと体を震わせる。
その白い頬を髪と同じ桜色に染め、とろけそうな瞳で、キスをねだるときと同じ表情で。
「だめなんですか?」
ナイロンの薄い布切れをずらそうと手をのばすと、条件反射のように腰を浮かすというのに。
これが女心ってやつなのですか。
「ミミさん、爪、乾きました?」
耳の裏に口づけをすると、熱く透明な液体はどろりとすべり、僕の指に玉を作った。

Posted by 小金井サクラ